2023年度公募プログラム

[文学部]

慶應・台北大共同「帝国日本」植民地史研究プロジェクト:東アジアの共生に向けた歴史認識の醸成を目指して

活動代表者

文学部准教授 前田廉孝

前田廉孝複雑化と緊密化が併進する東アジア近隣諸国・地域との共生で日本に求められる歴史認識の主体的な模索を塾生とともに試みます。

活動内容

本プログラムでは,文学部日本史学専攻で日本近代史を学ぶ学生を中心に以下3点の活動を実施した。

1)国立台北大学人文学院歴史学系との交流へ向けた学術研究
本プログラムメンバーの塾生と台北大学の参加者はそれぞれ日台の戦前期築造建造物の歴史・保存・利用について事例分析を進めた。塾生は1914年開業の東京駅丸の内駅舎に着目し,国立公文書館・東京都公文書館・鉄道博物館所蔵史料の分析から丸の内駅舎の歴史を概観した上で,戦後から国鉄は幾度となく建て替えを計画していた史実を示した。1980年代後半からは駅舎を含む丸の内地区における景観の価値を行政側も再認識したが,老朽化に伴う改修工事の費用捻出が懸案となった。そこで,2001年導入の特例容積率適用地区制度を利用し,駅直上の空中権売却によって工事原資を捻出することとなった。現在において東京駅丸の内駅舎は高い歴史的価値を有する建造物として認識されているが,稼働中の駅舎として耐震性など安全性の担保は懸案事項として浮上し,改修工事の原資捻出は営利企業であるJR東日本にとって保存に向けた不可欠な条件となっていた。以上の分析をプレゼンテーションとして英語でまとめた。

2)国立台北大学人文学院歴史学系との学術交流(使用言語:英語)
本プログラムでは2回の学術交流を実施した。第1に,2023年6月に台北大学のメンバーが三田キャンパスを訪れた。塾生たちはキャンパスの歴史と史跡を紹介し,塾史展示館を共同見学した。さらに,台北大生は日本統治期築造の台湾内建造物の歴史・保存・利用について”Cultural Heritage of Early Modern Foreigners in Taiwan”と題したプレゼンテーションを実施し,塾生とディスカッションを交わした。
第2に,同年9月に塾生が台北大学三峡キャンパスを訪問した。塾生たちは上記の分析成果をまとめた上で”Consideration of Factors Other than Cultural Motivation for the Protection of Cultural Property”と題したプレゼンテーションを実施し,台北大生たちとディスカッションを交わした。

3)台北市及びその周辺における日本統治期建造物の巡見
訪台時には,台北大生と共同で新北市三峡地区を巡見した。共同巡見では日本統治期の建物が並ぶ街並みを見学し,伝統的な寺院の見学も実施した。台北市中心部の巡見は塾生と引率教員で実施し,北門,旧大阪商船台北支店社屋,旧三井倉庫台北支店倉庫,台北郵便局,旧台湾総督府交通局庁舎(現・台湾博物館鉄道パーク),台湾総督府庁舎(現・総統府)を見学した。

4)台湾三田会との交流
訪台時には台湾三田会と交流した。台湾三田会は主に日系企業の在台駐在員と元留学生から会員が構成され,日台間における経済交流の実態とそれが抱える問題点をビジネスの現場で活躍する塾員から学んだ。

以上4点の活動より本プログラムの参加者は,過去から現在に至る日台間の経済交流を学術研究,同世代間の交流,塾員との交流など多様な形態から学んだ。そうした参加者の感想は以下の通りである。
台北大学人文学院歴史学系Webサイト

参加者の声

公募プログラム

文学部3年

今回の交流で学んだ点は、国際的な視野で物事を把握する力です。今回私は、丸の内駅舎の容積率と三菱地所の学術研究をしました。現地でこの研究の発表をする上で、苦労した点は、我々が「台北駅」や「板橋林家」と聞いてもイメージがわかないように、台湾の人々は、「丸の内駅」「三菱」と聞いてもイメージが持てない場合が多かったことです。継続して同じ文化圏にいると、つい常識のように思ってしまうことも、国際的な視野で見てみると、実は常識ではないことも多いと、改めて気づくきっかけとなりました。


文学部3年

今回のプロジェクトにおける慶應大学側の研究では一貫して都市の土地利用と建築物の保存・利活用というテーマがあり、主に官主体となり事業を進めた事例を取り上げたが、台北大学側の研究にも政策と近代遺産の保存・利活用の係わりが紹介された。日本史学は日本国内の事例を扱う学問とはいえ、こと近代史分野においては異国における事例も知ることで日本国内の事例を相対化することが出来、見えてくるものがあることを実感した。近代史を学ぶものとして、多くの刺激を受けることができた。

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