2025年度公募プログラム
[政策メディア研究科]
被災地支援活動を通じた実践的建築学習プログラム
活動代表者
政策メディア研究科教授 小林博人
モハメド6世工科大学と協力し、モロッコの被災地でコミュニティセンターの設計・建設を通じて、学生に実践的な建築学習の機会を提供します。F.I.T. Houseという独自の建築技術を使って現地住民と共に建物を作りながら、異文化理解を深めます。

2023年9月モロッコ中部マラケシュ・サフィ地方で起きたマグニチュード6.8の地震は、土と煉瓦でつくられた家々を破壊し、3,000人以上の被災者を出した。イスラム教が主たる宗教であるモロッコの地方地域では、村の中の小さいコミュニティが彼女たちの職場・憩いの場所となっている。本プログラムで建設する150㎡のコミュニティセンターは、女性が民芸品や工芸品を協力してつくることや、協働して子育てをする社交かつコミュニケーションの場となる。
本プログラムで提供するF.I.T.(Flexible, Intelligent and Transformable)Houseという建物は、「単一のパネル部材で壁、床、天井、柱、梁を構成できる」という特長により建設の専門的技術がなくても誰でも学びながら建設に参加可能である。また、パズルのようにパネルの組立・解体を容易にできるため被災地の復興段階に合わせて建物の形態を可変可能である。
本プログラムの活動は、以下のプロセスで実施する。
1. モハメド6世大学との調整
提携パートナー大学であるモハメド6世大学と建設対象敷地の選定、現地建築基準法の確認、現地行政との折衝を協働して遂行する。プロジェクトメンバーである本大学訪問講師のシェッダーディ・アキルと博士課程のリフキ・ハフサはモロッコ出身で、詳細の調整を担当する。
2. 建築設計・施工作業の参加学生の選考
建物の基本・実施設計は本大学湘南藤沢キャンパスを拠点としておこなうため、設計作業参加者を選考する。現地施工作業は実際にモロッコに渡航し、被災村で現地住民、モハメド6世工科大学の学生との共同作業のため、設計参加者の中から参加者を8名選考する。参加学生の対象は、慶應義塾に所属する高校生、大学生、大学院生、留学生である。
3. 事前研修
本プログラムで建設する建物を学生が基本・実施設計できるよう事前研修として外部技術講師を招き、2D図面・3Dモデル・建築設計・イスラム建築の指導を学生に実施する。また、現地施工作業参加学生には施工安全講習を受講し、現地で安全に施工できる体制を整える。
4. 建築設計
湘南藤沢キャンパスを拠点として、基本・実施設計をおこなう。毎週、代表者の研究会で設計のブラッシュアップをする。現地の建築様式・文化を設計に反映するため、定期的にモハメド6世工科大学とオンラインでのフィードバックミーティングをおこなう。
5. 住民とのF.I.T. House施工ワークショップ
参加学生と代表者はモロッコに渡航し、現地の住民、モハメド6世工科大学の学生とともに14日間でF.I.T. House(150㎡)の建設をする。学生は住民に建物の特長、仕組みを施工を通して教えることで竣工後も住民は自ら建物を維持・管理する所有者意識を育む。現地施工のプロセスは以下の通り、おこなう。5.6の水道、電気の設備施工以外は、1級建築士である代表者の監督のもと、本校学生が主体となっておこなう。
5.1 1日目 – モハメド6世工科大学訪問
モロッコベンガルーにあるモハメド6世工科大学に訪問し、14日間のF.I.T.House建設の段取りを確認する。
5.2 2日目 – 被災村訪問
モロッコ中部マラケシュ・サフィ地方のF.I.T. House建設予定の被災村に訪問し、住民に挨拶、説明をする。
5.3 2日目 - F.I.T. House 1/10模型組立ワークショップ
実寸の10分の1模型を用いて、被災村の現地住民とモハメド6世大学の学生にF.I.T. Houseの仕組み・施工工程の説明。説明後、実際に住民に模型の組立をしてもらう。
5.4 3日目 - 平面プランのライン引き
学生が作成した平面プランをもとにF.I.T. House建設位置を地面にラインで描く。
5.5 4日目 - F.I.T. House基礎固定
基礎となるスパイラル単管を杭打ち機を用いて打ち込む。ポーランドにて実施したワークショップ時と同じ工具、手順で安全性を確保しながら実施する。また、基礎のレベルを水平器を用いて調整する。
5.6 5~7日目 - F.I.T. House床・壁・柱・梁・天井の組立
パネルを床→壁→柱→梁→天井の順に組み立てする。パネル1つあたりの重さは50kgのため、1パネルあたり本校の学生2人が監督し、安全性を担保しつつ組立作業する。また、柱と梁は現地で電動マルノコを用いて適切なサイズに加工後、組み立てする。
5.7 8~10日目 - 屋根・外壁・内壁の施工
止水のため、F.I.T.House天井パネルの上部に屋根構造と屋根、外壁、内壁を施工する。屋根の高さが2.5m以上となるため、足場を組立後、屋根取付作業を実施する。電動インパクトドライバを用いて、ビスで屋根、外壁、内壁をF.I.T. Houseに取り付ける。
5.8 11~12日目 - 水道、電気の設備施工
水道と電気の施工は、現地の専門家へ依頼する。
5.9 13日目 - 安全確認
最後に建物の安全確認を実施する。
5.10 14日目 – 撤収作業
廃材、工具、その他の物を撤収する。
6. プログラム評価
本大学所属の学生とモハメド6世工科大学の学生にプログラムのアンケート調査を実施し、プログラムの満足度、各活動についての評価、改善点などをまとめ、分析結果を次年度の活動に反映させる。
また、現地住民にも施工過程と施工後建物に対してのアンケート調査を実施し、次年度の活動に反映させる。