2008年度公募プログラム
ヨーロッパ諸大学短期留学型研修プログラム

活動課題(テーマ)
国際舞台で活躍するためには、母語と英語だけではなく、第3の言語の能力が求められる。本プログラムでは、日本ではまだ専門家が不足しているといわれるヨーロッパをフィールドとして、ドイツ語、フランス語の高度な能力を駆使して、現代ヨーロッパの諸問題と取り組むことのできる人材の育成を目的とする。
そのため、ドイツ、フランスの大学を拠点として、一人一人の学生が各自のテーマに関連するフィールドワークを行うという短期留学型のプログラムを実施する。本プログラムは、外国語能力の向上を目的とした語学研修とは異なり、外国語能力を活かした海外のフィールドワークを通じて専門研究を進める能力の養成を目指す。いいかえれば、従来行われている語学研修を超えた、より高く、より深い、未来先導型の研修であるといえる。
担当
総合政策学部教授 平高 史也
本プロジェクトはドイツ語、フランス語を駆使し、ヨーロッパをフィールドとした問題発見と解決に取り組める学生の育成を目的とします。日本ではまだ数少ないヨーロッパに対する視点を持つ人材の輩出を目指します。
主な活動メンバー
総合政策学部教授 平高史也
総合政策学部教授 古石篤子
総合政策学部教授 堀 茂樹
総合政策学部准教授 藁谷郁美
総合政策学部准教授 國枝孝弘
総合政策学部訪問講師(招聘) マルコ・ラインデル
総合政策学部訪問講師(招聘) パトリス・ルロワ
事務担当部門
湘南藤沢キャンパス事務室 学事(学生支援グループ)
本プログラムでは、ドイツ語、フランス語の運用能力に優れ、具体的な研究テーマをもち、かつ、その研究の進展のために、実際にヨーロッパでインタビューを実施したり、資料調査を必要とする学生を選抜して、フィールドワークの機会を与えた。
フランス語セクションの4 名はいずれも春期休暇を利用して、数週間にわたって、パリ第7 大学日本語学科の学生TA のサポートを随時受けながら、フィールドワークを行ない、それぞれの専門研究を進めた。4 名の研究テーマは以下の通りである。1)パリにおけるモード支援体制の検証。パリの公的機関(市など)、組合などが、どのような方策をもってパリのモード産業を支えているかを研究。2)作家アニー・エルノー-書くことの理由―。フランスの現役作家アニー・エルノーに直接インタビューし、「救済」のテーマに焦点をあてて作品を分析する研究。3)フランスにおける医療分野の鑑定人制度について。日本ではなり手の少ない、裁判等における医療鑑定人制度の先進例を調査する研究。4)フランスにおける日本語学習環境研究。パリの日本語学校、大学等を訪れ、日本語教育の現状を調査するとともに、よりよい教材を新たに作るための調査研究。
一方、ドイツ語セクションでは夏期および春期休暇中に各々4 名ずつを派遣した。8 名の学生はいずれもハレ大学日本学科の学生TA のサポートを受けながら、約4 週間のフィールドワークを行った。8名のテーマは以下の通りである。1)メディア媒体としての映画の受容。映画館での上映調査などを通して、現状を探る研究。2)自分の住んでいる町の想起に関する意識調査。ハレとベルリンで実施。3)旧東ドイツ地域における都市計画。ハレと周辺都市(ベルリン、ドレスデンなど)との比較観察や、市民・行政への聞き取り調査など。4)ザクセン・アンハルト州の静脈産業。産業廃棄物に関する政策の実態を州の環境省や企業訪問を通して調査。5)メディアに関する学生の意識調査。アンケート、フリーラジオ局の訪問、新聞やフリーペーパー等資料の収集など。6)メディアアートの今とこれからの10 年。メディアアートを専門とする研究者や学生、キュレーター、アーティストへのインタビューと撮影、メディアアート関係者やシンポジウムなどの情報収拾、関連テーマの美術館訪問。7)ドイツで実際に使われているドイツ語と外国語として教えられているドイツ語の乖離。学生へのアンケート、教授へのインタビュー、図書館や書店での調査、日常会話の調査などによる研究。8)ドイツ語母語話者と非母語話者の会話の分析。ドイツ人とイタリア人の会話の収録、バイリンガル学校の見学、図書館での文献探索などによる研究。
今回のプログラムは、外国語を学ぶための研修ではなく、外国語を使って、自らの専門研究を掘り下げていく新しいタイプの研修システムである。それぞれの学生がフィールドワークを行なったが、英語ではなく、フランス語、ドイツ語という現地の人々の言葉を直接使って行なわれた点がまずは特筆に値する。
また、単に街角で一般の人々にインタビューを行なうのではなく、それぞれの研究目的に合致した関係者へ調査インタビューをしている点が意義深い。具体的に「実施状況」で挙げた順にフランス語参加者のインタビューの相手を列挙すると、1)役所の公務員、若手デザイナー、2)作家本人、3)医師、鑑定団体の副代表、4)日本語を教える大学教員、学習者となっている。このように日本にいるだけでは決して得ることのできない現場の声を、それぞれの研究に反映させることができたことは、学生たちの研究の推進に大きく寄与したはずである。
さらに、インタビュー調査や見学先の機関も企業や役所、学校、映画館、美術館などと多様であり、学生たちが足を使って研究しようとしたことがわかる。
最後に、参加者の関心領域がモード、医療、メディア、環境、都市計画、言語、文学と多岐にわたっていることも、外国語教育やヨーロッパ研究の新たな地平、さらには言語(ドイツ語、フランス語)教育と専門領域のコラボレーションの展開の可能性を示しており、興味深い。
自らの言語能力、専門分野の知識、そして行動力をあわせもった学生を育成することを狙いとした今回の研修プログラムを通して、未来を切り開く若者の具体像を提示することができたと判断できる。
本プログラムのような試みを継続して実施することができれば、次の2つの方向への発展が期待できる。
(1) 語学研修とも留学とも異なる、第3 の海外滞在プログラムとして、海外諸大学との協調学習を主体とした新たな学習環境の構築が実現できる。今回も渡航先の大学の学生TA のサポートが大きな役割を果たしたが、今後はそうした現地の学生とのグループ研究も一つの方向として考えられよう。
(2) これまで人文科学、社会科学が中心であったヨーロッパ研究に、新たな分野(デザイン、メディア、環境政策など)でも、<外国語運用能力+専門分野>というダブルスキルを備えた学生の育成に寄与できる。
新たな課題としては、学生たちに帰国後もこの種の体験を生かせるような授業、特に外国語の授業を提供できるかどうかという問題がある。
なお、本プログラムは2008 年度はSFC のみで実施したが、2009 年度は全塾での展開を予定しているので、より多くの領域での学生の参加が見込まれる。